器のはなし

1「手の中のアート」 _2012.10.04


映画や小説、音楽など他者が生み出したものに触れることで 新しい価値観に衝撃を受けたり新しい発見をしたり、 表現する人と鑑賞する人との間には心の行き来が生まれます。
そういう意味では、作家ものの器も映画や小説などと同じだと思います。 よく言われるように器がそれらと異なるのは、 日々使える道具でもあるということです。

買った当初は毎日のように惚れ惚れと眺めていた器も、 時が経つにつれ日常の一部として馴染み、 特別なものとして意識する機会は減るかもしれません。
けれども器を長く使っていると、ふと思い出したように良さを再認識したり、 より深く理解できるようになる瞬間があります。
演奏を何度も聴き返したり小説を読み返したりするのと同じように、私たちは使う程に自然と器や作り手について咀嚼し、自分自身のものにしてゆくのだと思います。この確かな手応えは、フラットな今の時代に作家ものの器を選ぶ愉しさの一つだと考えています。そして、たとえ器が割れてなくなってしまったとしても、築かれたものは咀嚼した分だけ、きっと心の糧として残ってゆくはずです。

お仕事や家事、育児など何かを忙しく頑張っていらっしゃる方に、ぜひ作家ものの器を使ってみて頂きたいなと思います。そしてそれぞれの使い手の方の手元で、一つひとつの器が時間をかけさまざまな含みのある器に育っていってくれたら。そう願っています。